Hegelroom / Biography

Raymond Bernard Cattell

心理学 / ロンドン / 1905–1998

人間の複雑さを数字にほどこうとした心理学者は、測定だけでなく社会の未来まで数式で考えようとした。

心理学者レイモンド・B・キャッテルの肖像
Cattell family / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0
1905Born
1998Died
92Age
心理学Field

02 / Profile

レイモンド・B・キャッテルとは?

レイモンド・B・キャッテル(1905–1998)は、因子分析を人格と知能の研究へ大規模に応用し、16PF人格検査や流動性知能・結晶性知能の区別を発展させた心理学者。化学から心理学へ転じ、イリノイ大学で多変量研究を進めた。大きな方法論的貢献と同時に、優生思想やBeyondismをめぐる論争も残した。

生誕
1905年3月20日
死去
1998年2月2日
年齢
92歳
出生地
イングランド(イギリス)
活動地域
ロンドン、イリノイ、ハワイ
分野
心理学、人格心理学、心理測定学

03 / Life

一人の人生を読む

化学から心理学へ

レイモンド・バーナード・キャッテルは1905年、イングランドに生まれた。若いころに学んだのは心理学ではなく、化学と物理学だった。19歳で学士号を取得したが、人間の行動を自然科学のように測れないかという問いへ関心を移していく。

当時の心理学には、性格や知能を言葉で説明する理論が数多くあった。キャッテルが惹かれたのは、それらを測定可能な変数に変え、データから構造を探す方法だった。ロンドンでは、知能研究と因子分析を切り開いたチャールズ・スピアマンの影響を受ける。

1929年に博士号を取得した後、児童相談の仕事などを経て、1937年にアメリカへ移った。コロンビア大学、クラーク大学、ハーバード大学で研究を続け、1945年にイリノイ大学へ移る。

人格を「16の因子」にほどく

人の性格を表す言葉は何千もある。「社交的」「慎重」「支配的」「不安が強い」。それぞれを別々の性質と考えれば、人格は際限なく複雑になる。

キャッテルが使った因子分析は、多数の測定項目の相関から、背後にある少数の共通因子を探す統計的方法だった。彼は生活記録、質問紙、客観テストなど異なる種類のデータを集め、人格の構造を分解しようとした。

その研究から発展したのが16PF、16人格因子質問紙である。後の研究では人格をより少数の大きな因子でまとめるモデルも発展したが、キャッテルの仕事は「人格を印象で語るのではなく、複数の測定値から構造を探す」という方向を強く押し進めた。

コンピュータが心理学の問いを変える

1945年にキャッテルが移ったイリノイ大学では、大規模な計算を行う環境が整いつつあった。多数の変数を同時に扱う因子分析は、手計算では膨大な労力を必要とする。

コンピュータの発達は、単に計算を速くしただけではない。それまで現実的に扱えなかった数の変数を、一度に分析できるようにした。

キャッテルは1949年、妻のアルバータ・カレン・キャッテルとInstitute for Personality and Ability Testing(IPAT)を設立する。人格検査だけでなく、文化や言語への依存を減らして認知能力を測ろうとするCulture Fair Intelligence Testsも開発された。

レイモンド・B・キャッテルの肖像
レイモンド・B・キャッテル。Cattell family / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0.

知能は一つではない

キャッテルのもう一つの大きな仕事が、流動性知能と結晶性知能の区別である。流動性知能は、既に知っている知識だけに頼らず、新しい問題の関係を見抜き、推論する能力を指す。結晶性知能は、教育や経験を通じて身につけた語彙や知識、技能を使う能力である。

この区別は、年齢と知能の関係を考えるうえでも重要だった。すべての知的能力が同じ速度で変化するわけではない。後にジョン・ホーンらが発展させ、さらにキャロルの研究と統合されたCHC理論は、現在の知能研究や心理検査に大きな影響を与えている。

科学で社会の未来まで設計できるのか

一方、キャッテルは測定と心理学の範囲を越え、社会のあり方そのものを科学的に設計できると考えるようになった。1972年の『A New Morality from Science: Beyondism』などでは、人間集団の進化や選択をめぐる思想を展開した。

ここには優生思想と結びつく主張が含まれ、後に強い批判の対象となった。人格や知能を測定することと、どの性質を社会が望ましいと判断し、将来へ増やすべきだと決めることは別の問題である。後者には価値判断と権力の問題が避けられない。

キャッテル自身は晩年、人種差別を否定し、自分の主張が誤解されていると反論した。しかし、彼が優生学的な社会思想を長く論じた事実と、それに対する批判もまた、彼の知的経歴の一部である。

1997年、受賞をめぐる論争

92歳になった1997年、キャッテルはAmerican Psychological Foundationの心理科学における生涯業績金メダルの受賞者に選ばれた。授賞前、過去の著作に含まれる優生思想や人種をめぐる記述への批判が表面化し、財団は授与を延期して検討委員会を設けた。

同年12月13日、キャッテルは公開書簡を出した。そこで人種差別を否定し、1930年代の自分の記述には後に修正したものもあると説明した。その後、彼は賞を辞退した。

科学的業績への評価と、研究者が社会について書いた思想をどこまで切り離せるのか。この論争は、彼の晩年にその問いを突きつけた。

測る技術と、使う判断

キャッテルは1973年にイリノイ大学を退職し、1970年代後半にはハワイへ移った。その後も研究と執筆を続け、1998年2月2日にホノルルで92歳で亡くなった。

彼が残したものは一つではない。因子分析を使った人格研究、16PF、流動性・結晶性知能、多変量研究の方法。そして、測定によって得た知識を社会設計へ直接つなげようとしたときに生じる危うさである。

数字は、人間について見えなかった構造を見せることがある。しかし、数字が示した差をどう評価し、社会でどう扱うかまで、統計そのものが決めてくれるわけではない。キャッテルの長い研究人生は、その二つを同時に考える材料を残している。

参考資料

  • Gregory J. Boyle, “Raymond B. Cattell,” The Wiley Encyclopedia of Personality and Individual Differences, 2020.
  • Ralph Mason Dreger & Irwin A. Berg, “Raymond Bernard Cattell (1905–1998),” Psychological Reports, 2002.
  • Smithsonian National Museum of American History, “Leaflet, IPAT Culture Fair Intelligence Tests.”
  • Raymond B. Cattell, “Open Letter to the APA,” 13 December 1997.
  • National Diet Library, 『16PF人格検査手引』書誌情報.

04 / Timeline

時間の輪郭

  1. 1905年3月20日0歳

    イングランドに生まれる

  2. 192419歳

    化学・物理学を学び学士号を取得

  3. 192924歳

    心理学で博士号を取得し、因子分析と心理測定の研究へ進む

  4. 193732歳

    アメリカへ移り、コロンビア大学などで研究

  5. 194540歳

    イリノイ大学の研究教授となり、多変量心理学の研究拠点を築く

  6. 194944歳

    Institute for Personality and Ability Testing(IPAT)を設立

  7. 196560歳

    『The Scientific Analysis of Personality』を刊行

  8. 197368歳

    イリノイ大学を退職

  9. 197772歳

    ハワイへ移り、その後も研究と執筆を続ける

  10. 199792歳

    APFの生涯業績賞をめぐり、優生思想などへの批判から授与が延期され、のちに本人が辞退

  11. 1998年2月2日92歳

    ホノルルで死去

05 / Works

主な仕事

01

人格検査 / 1949

16 Personality Factor Questionnaire(16PF)

人格を複数の一次因子から測定する質問紙。改訂を重ね、人格心理学と実務的アセスメントに影響した。

02

知能理論 / 1940

流動性知能・結晶性知能

新しい問題を解く能力と、教育・経験で蓄積された知識を区別する考え。後のCHC理論へつながった。

03

著書 / 1965

The Scientific Analysis of Personality

人格を因子分析と測定によって科学的に研究する方法をまとめた。

06 / Conditions

レイモンド・B・キャッテルの人生をつくったもの

  • 01

    複雑な人間を、少数の軸で捉える

    因子分析を使い、人格や知能の背後にある構造をデータから見つけようとした。

  • 02

    道具が問いを変える

    大量計算を必要とする多変量解析とコンピュータの発展が、彼の研究を大きく押し広げた。

  • 03

    科学と価値判断の境界

    心理測定への貢献の一方、優生思想とBeyondismをめぐる主張は晩年まで強い批判を受けた。

07 / Read more

もっと知る

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日本語で16PFを知る

02

16PF人格検査手引

Raymond B. Cattell / Herbert W. Eber / 伊沢秀而ほか訳

日本文化科学社、1982年。国立国会図書館で日本語版の書誌が確認できる。

Book / Further reading

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この図書館の背景にある本

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