一人の人生を読む
ミルウォーキーで、「欲しく見える形」を仕事にした
ブルックス・スティーヴンス(Brooks Stevens)は1911年、ウィスコンシン州ミルウォーキーに生まれた。8歳頃にポリオを患い、右腕などに後遺症が残ったが、車、船、鉄道を描き、模型をつくることへの関心は続いた。
コーネル大学では建築を学んだものの、学位を取らずにミルウォーキーへ戻る。仕事のなかでラベルやロゴを直し、商品が「どう見えるか」によって受け取られ方が変わることを経験した。1935年7月1日、24歳で自分のデザイン事務所を開いた。
拠点に選んだのはニューヨークではなく、生まれ育った工業都市だった。中西部のメーカーを顧客に、工場がつくる製品を、人が店頭で手に取りたくなる姿へ変えていった。
デザイナーは、まず商売人である
スティーヴンスは、デザインの商業的な目的を隠さなかった。美しいものをつくることだけではなく、商品が選ばれ、企業に利益が残り、その結果が次の仕事につながることまでを仕事の中に含めていた。
ミルウォーキー美術館のアーカイブは、彼が「レジを鳴らす」ことを主目的として率直に語った人物だと整理している。マサチューセッツ工科大学出版局の研究書も、その姿勢を「商売人、技術者、スタイリスト」という順序で表現している。
一つの商品を魅力的にするだけでなく、商品が市場でどう受け取られ、その会社が次に何をつくるかまでが、スティーヴンスの仕事の範囲になっていった。
列車の最後尾まで「商品」にする
戦後、事務所の仕事は家庭用品、芝刈り機、船外機、オートバイ、自動車、鉄道車両へと広がった。
1947年に設計へ関わったミルウォーキー・ロードのスカイトップ・ラウンジは、列車の最後尾から空と景色を眺めるための車両だった。移動できれば鉄道の基本的な機能は満たせる。それでも、景色を見る時間や「この列車に乗ってみたい」と思う体験そのものが商品価値になる。
広告車両のウィーナーモービルや、のちのジープ系車両にも同じ姿勢が見える。機械の性能だけでなく、人がそれを見て欲しくなるところまでがデザインの仕事だった。
1954年、講演の前夜に名前をつけた
1954年、スティーヴンスはミネアポリスの広告クラブで講演することになっていた。ミルウォーキー美術館の記録によれば、前夜に街へ到着し、翌日の講演題を考えるなかで「計画的陳腐化(planned obsolescence)」という言葉を思いついた。
翌日、彼が説明したのは、商品を故意に壊れやすくすることではなかった。買い手に、必要になるより「少し早く」、今持っているものより「少し新しく、少し良いもの」が欲しいと思わせることだった。
この言葉は長く生き残り、同時に問題も残した。まだ使える物を買い替えたくさせることは企業に販売を生むが、社会全体から見れば消費と廃棄を増やす力にもなる。スティーヴンス自身は「計画的陳腐化」と「組織的な浪費」は別だと主張し、古い商品が中古市場へ回る循環を想定していた。それでも、デザインが欲望を刺激する以上、この問題は消えない。
事務所が大きくなると、本人の仕事も変わった
スティーヴンスの事務所は、長い活動のなかで約3,000の製品に関わったとされる。仕事量が増えるにつれ、本人の役割も変化した。
ミルウォーキー美術館のアーカイブは、全盛期にはスティーヴンスが実制作を担う時間よりも、顧客と話し、案件を獲得し、仕事の方向を決める時間が大きくなっていたと説明している。その方向のもとで、スタッフのデザイナー、製図者、模型製作者、技術者が具体的な形をつくった。
1935年に小さな事務所を始めた若いデザイナーは、やがて「自分で形を描く人」から、「デザインの仕事そのものを生み出し、チームを動かす人」へ役割を広げていった。商品を売ることで顧客との関係を続け、次の依頼を獲得し、さらに大きなチームで次の商品をつくる。その循環もまた、彼の仕事の一部だった。
デザインは、いつまで新しく見えるのか
スティーヴンスにとって、完成した形は永遠の答えではなかった。技術が変わり、人の好みが変われば、商品に求められる姿も変わる。
1954年に好きなデザインを尋ねられた際にも、過去の一作を永遠の完成形として選ぶのではなく、未来の好みに合わせれば再び考え直す必要があるという立場を示した。
その考えを商売として見れば合理的である。企業は一度だけ商品を売るのではなく、何年にもわたって新しい商品を出し続ける。その一方で、昨日まで十分だった物を、今日から古く感じさせる力も生まれる。
デザインとは、よりよい物を長く使えるようにすることなのか。それとも、人が次を欲しくなる理由をつくることなのか。スティーヴンスの仕事がいまも引っかかるのは、その二つが必ずしも同じ方向を向かないことを、商業デザインの内側から言葉にしたからである。
参考資料
- ミルウォーキー美術館「ブルックス・スティーヴンス・アーカイブ」
- アメリカ工業デザイナー協会「ブルックス・スティーヴンス」
- ジープ公式ヒストリー「1960年代」
- マサチューセッツ工科大学出版局『インダストリアル・ストレングス・デザイン』書誌・紹介
- ウィキメディア・コモンズ「スカイトップ・ラウンジ車内」「ペティポイント・アイロン」画像権利ページ




