~生涯~
マザー・テレサ(Mother Teresa、本名:アグネス・ゴンジャ・ボヤジウ、1910年8月26日 – 1997年9月5日)は、アルバニア出身のインド人カトリック修道女であり、「愛の宣教者会」(Missionaries of Charity)の創設者です。彼女は貧困層への献身的な奉仕活動で世界的に知られ、1979年にはノーベル平和賞を受賞しました。生涯を通じて、最も貧しい人々や病気の人々に無償で奉仕し、その慈善活動は、彼女の死後も続いています。2016年9月4日にはカトリック教会によって聖人として列聖されました。
幼少期と家族
マザー・テレサは、1910年8月26日、オスマン帝国支配下のスコピエ(現在の北マケドニアの首都)に、アルバニア人のカトリック教徒の家庭に生まれました。本名はアグネス・ゴンジャ・ボヤジウで、”ゴンジャ”はアルバニア語で「つぼみ」を意味します。父親のニコラは、地域社会で政治活動に従事しており、1919年に急死しました。このため、母親のドラナフィルが家族を支え、子どもたちにカトリック信仰の重要性を教えました。
彼女は幼い頃から宣教師の話に強く感銘を受け、12歳の時には宣教師として生きることを決意しました。そして、18歳のときに家を離れ、アイルランドのロレト修道女会に入会し、宣教師になるための英語を学びました。その後、1929年にインドのコルカタ(旧カルカッタ)に派遣され、そこで修道生活を送りながら教育活動に従事しました。
宣教師としての活動の始まり
マザー・テレサは1931年に初誓願を立て、「テレサ」という名前を選びました。この名前は、宣教師の守護聖人であるリジューの聖テレーズに由来しています。1937年には最終誓願を立て、ロレト修道女会の校長としてコルカタの学校で教職に就きました。しかし、彼女は次第に周囲の貧困や飢饉に心を痛めるようになり、特に1943年のベンガル飢饉と1946年の宗教的暴動が彼女に大きな影響を与えました。
1946年9月10日、彼女はコルカタからダージリンに向かう列車の中で「二重の召命」(the call within the call)を感じ、神から「最も貧しい人々の間で生き、彼らに仕えるように」との使命を受けたと語っています。彼女はその後、ロレト修道女会を離れ、貧困層に直接的な支援を行うことを決意しました。
「愛の宣教者会」の設立
1950年、マザー・テレサはバチカンの許可を得て「愛の宣教者会」を設立しました。この修道会は、貧しい人々、病気の人々、捨てられた人々に奉仕することを目的としており、会員は清貧、貞潔、従順の誓願に加え、「最も貧しい人々への無償の奉仕」を誓います。
彼女の活動は、コルカタの貧困層のために始まりましたが、次第に国際的な広がりを見せ、彼女と「愛の宣教者会」は、世界各地でホスピス、孤児院、診療所、学校を設立し、貧困層、病気の人々、孤児などに対して支援を行うようになりました。彼女は特に、ハンセン病患者やエイズ患者への支援活動にも力を注ぎました。
1952年には、コルカタ市の支援を受けて最初のホスピス「ニルマル・ヒルダイ」(純潔な心の家)を開設しました。ここでは、病気や貧困で死を迎える人々が、信仰に従って尊厳をもって最期を迎えられるように、マザー・テレサはケアを提供しました。1955年には孤児院「ニルマラ・シシュ・バヴァン」を開設し、孤児や見捨てられた子どもたちの保護にも力を入れました。
国際的な活動と受賞歴
1960年代以降、彼女の活動はインド国内だけでなく、世界中に広がりました。彼女はベネズエラやローマ、アフリカ諸国、さらには米国などに活動の拠点を広げ、多くの修道女とともに貧困者の支援活動を行いました。また、彼女の奉仕活動は各国政府や国際的な機関からも高く評価され、1962年にはアジアのノーベル賞とも称されるラモン・マグサイサイ賞を受賞し、1979年にはノーベル平和賞を受賞しました。
ノーベル賞受賞スピーチでは、彼女は世界平和を促進する方法として「家に帰り、家族を愛しなさい」と述べ、その慈愛と謙虚さが広く称賛されました。彼女の人生は、貧困に苦しむ人々に対する慈悲深い奉仕の象徴として、多くの人々に影響を与えました。
物議を醸した面
マザー・テレサは広く称賛されましたが、その活動に対する批判もありました。特に、彼女が貧しい人々の苦しみを美化し、十分な医療ケアを提供していなかったとの批判がありました。英ジャーナリスト、クリストファー・ヒッチェンズは彼女の活動を強く批判し、彼女が「貧困を助長している」と主張しました。また、彼女のカトリック教義に基づく厳格な立場、特に中絶や離婚に対する強い反対も物議を醸しました。
しかし、マザー・テレサは批判に対して一貫して、自身の行動は「キリストのため」であり、「神の意志に従っている」と説明し、批判を受け流しました。
晩年と死去
1990年代に入ると、マザー・テレサの健康状態は次第に悪化し、心臓発作や肺炎などを患いました。1997年3月、彼女は「愛の宣教者会」のリーダーの座を退き、その年の9月5日に87歳で亡くなりました。彼女の葬儀はインド政府によって国葬として執り行われ、多くの人々が彼女の死を悼みました。
列聖と遺産
マザー・テレサは、彼女の死後、カトリック教会によって列福され、2016年9月4日に教皇フランシスコによって聖人として列聖されました。彼女の生涯と業績は、世界中で多くの書籍、映画、ドキュメンタリーで取り上げられ、彼女の名前を冠した病院、孤児院、慈善団体が世界中に存在します。また、アルバニアや北マケドニアでは、彼女の誕生日や命日は記念日として祝われています。
Book
漫画:
自伝・伝記:
なし
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