家に帰って、
家族を愛してください
愛と奉仕の象徴として
マザー・テレサ
の生涯
マザー・テレサの名は、世界中で「愛と奉仕」の象徴として知られている。彼女の生涯は、貧困や病に苦しむ人々への献身によって彩られていた。その姿勢は、現代においても多くの人々に影響を与え、慈善活動や社会福祉の分野における指針となっている。
彼女の思想の根本には、「人間の尊厳」があった。すべての人は尊重され、愛されるべき存在であるという信念が、彼女をして「死を待つ人々の家」や「神の愛の宣教者会」の設立へと導いた。彼女の活動は単なる慈善ではなく、人間の根源的な価値を問うものだった。
しかし、彼女の歩みは決して順風満帆ではなかった。インド社会での反発、活動の批判、資金の使途に関する議論、さらにはカトリック教会内部での議論など、幾多の困難に直面した。それでも彼女は自らの信念を貫き、貧しい人々のために生涯を捧げた。
幼少期に育まれた信仰と奉仕の精神
1910年、マケドニアのスコピエで生まれたアグネス・ゴンジャ・ボヤジュ(後のマザー・テレサ)は、裕福なカトリック家庭の中で育った。父は事業家であり、アルバニア独立運動にも関わるほどの社会的地位を持っていたが、彼女が9歳のときに急死してしまう。この出来事が、彼女の人生に大きな影を落とすことになる。
母ドラナは熱心なカトリック信者であり、貧しい人々への援助を惜しまなかった。幼いアグネスは、母の姿を通じて「人を助けること」の意味を学ぶ。そして12歳のとき、カトリックの宣教師がインドでの活動について語る話を聞き、深い感銘を受け、彼女は「インドで修道女として働きたい」と考えるようになった。この幼少期の経験が、彼女の人生の基盤を形作った。
修道女としての道と教育者としての歩み
18歳になったアグネスは、修道女になるためアイルランドのロレト修道女会に入る。その後、1931年にインドのダージリンへ赴き、修道名「テレサ」を授かる。彼女はカルカッタの聖マリア学院で歴史と地理を教え、生徒たちから慕われる教師となった。
しかし、彼女の心は次第に「貧しい人々のために何ができるか」という問いに満たされていく。カルカッタのスラム街に暮らす人々の厳しい現実を目の当たりにしながら、上流階級の女子学生に教育を施すことに矛盾を感じるようになったのだ。
神の啓示と使命への転機
1946年、36歳のときに人生の転機が訪れる。黙想のために向かったダージリン行きの列車の中で、彼女は
「すべてを捨て、最も貧しい人々の間で働くように」
という神の啓示を受ける。これが彼女の人生の方向を決定づける出来事となった。
しかし、修道会を離れて活動を始めることは容易ではなかった。彼女はバチカンに特別許可を求め、1948年にようやく修道院外での活動が認められる。貧民街に入り、青空教室を開設。所持金はわずか5ルピー。それでも彼女は「ないものを分かち合う」精神で、最も貧しい人々のために尽くし続けた。
しかし、当初は地元住民の反発もあった。「キリスト教への改宗を目的としているのではないか」という疑念があったためだ。それでも彼女は決して布教を強制せず、病気のヒンドゥー教徒にはガンジス川の水を、イスラム教徒にはクルアーンを読んで聞かせるなど、宗教を超えた奉仕の姿勢を貫いた。
無償の奉仕に基づく活動の拡大
1950年、「神の愛の宣教者会」を設立。目的は、「最も貧しい人々、見捨てられた人々、誰からも必要とされない人々のために働くこと」。この理念のもと、ホスピスや児童養護施設などを次々と開設していった。
彼女の言葉の中で最も象徴的なのは、「家に帰って、家族を愛してください」というメッセージだ。世界平和のために何ができるかと問われたとき、彼女は「大それたことではなく、身近な人への愛こそが最も大切」と語った。
逝去とその後の影響
1979年、ノーベル平和賞を受賞。授賞式では、「私はこの賞に値しない。ただ、最も貧しい人々に代わって受け取る」と述べ、賞金はすべて貧しい人々のために寄付した。
晩年は健康を害しながらも活動を続けた。1997年、87歳でカルカッタの「マザーハウス」にて逝去。インド政府は彼女を「国家の母」として異例の国葬で弔った。
彼女の死後も、「神の愛の宣教者会」は活動を続け、世界中で貧しい人々を支援している。2016年、彼女はカトリック教会によって聖人に列せられた。
しかし、彼女の活動には批判も存在する。医療水準の低さや資金の不透明性、独裁者との関係などが指摘されてきた。彼女の信念である「貧しい人々とともに生きる」ことは、時に「苦しみを美化する」ことにつながると批判された。
それでも、彼女の生涯が世界に与えた影響は計り知れない。彼女は、貧しい人々が「ただ助けられる存在」ではなく、「尊厳を持つべき存在」であることを示し続けたからだ。
Book
漫画:
自伝・伝記:
なし
おすすめの本:
参考文献:
マザーテレサについて | インド・マザーテレサボランティア
マザー・テレサ – Wikipedia
マザー・テレサは聖人ではなかった | ハフポスト NEWS
マザー・テレサ、愛と献身の生涯:心理学総合案内こころの散歩道